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釘煮

今年もまた釘煮の季節がやってきました。
釘煮とはイカナゴの稚魚の佃煮のことで、見た目が錆びた鉄釘のようだからそのような名前らしいです。
兵庫県の瀬戸内辺りに面した土地で作られている家庭料理で、埼玉県出身の自分は神戸出身の夫と結婚するまでその存在を知りませんでした。
存在を知ったのは、神戸の義理の母から毎年この季節になると「今年も炊きました」という手紙とともにおすそ分けが届くからです。
どうやらその土地のソウルフード的な存在であること、毎年春が来たことを実感する食べ物であることがわかりました。
が、義母から届くそれは「これ釘煮ちゃうんちゃう……」と、関西人の血は1㎖たりとも流れていない私に関西弁を使わせてしまうくらい薄味の、グレーでへなっとした、とても「錆びて曲がった釘」には見えないものでした。
これはちゃんと保存食として機能するのだろうか? という疑問もわくほどの薄味でしたし、なにより箸がすすまない……。なのである年からは、届いたタッパーの中身を全て炊きなおしてしまうことにしました。炊きなおすといっても調味液と生姜を足して煮るだけなので気楽です。
その次の年は生姜のかわりにレモンをいれることも思いつきました。これがヒットで、うちに遊びに来た松田青子嬢(兵庫県出身)に「これもう少しあるー?」とお代わりをさせるほどでした。
レモン釘煮は夫にも好評でしたが「これ、おかんに送ったったらええんちゃう?」と言い出したので仰天しました。
「……え? お義母さんにケンカ売れってこと?」と訊き返すと「? なんでケンカ売ることになるん? 『うちの味はこうですよ』って送りあうのが釘煮文化やんかー。だからこの時期の神戸のスーパーは薄いタッパーもイカナゴの隣に山積みで売ってるんやで」と呑気です。
「その文化はわかったけど、こっちじゃ生のイカナゴなんて獲れないんだからお義母さんの釘煮を炊きなおしたのバレるでしょう」と言うと「え、獲れへんの? そうなんやー」と純粋な馬鹿そのものの答えです。
馬鹿にイライラしながらも「釘煮はよその家と交換するものである。たとえ相手先が大量のその家の味の釘煮を炊いていても『これがうちの味ですねん』と押し通しておすそ分けしてなんぼである」ということがわかったのが収穫でした。
kugini
「今年も炊きました」の手紙には「少しですがどうぞ」とも添えてあり、これがぜんぜん少しではなく(15㎝×24㎝、深さ4㎝くらいのタッパーにぎっしり)、なんせ甘いので、食べつけない私の用意する食卓にのぼる回数も少なく、毎年次の年まで残るのです。別の兵庫県出身の友人も「実家から送ってもらってる釘煮のタッパーの、去年の分がなくなる前に今年のが届く」と言ってました。……が、量を訊いたらお弁当箱4つ分のうち2つはきちんと消費しているらしいので「ソウルフードってやつぁ……!」とも思います。そういえばそろそろあの甘ったるい味が、食べたい、かもしれない(でも少しでいい)。

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1979年鳩ヶ谷市生まれ。ミニコミ紙“W0B0R0”編集長。俳句の同人“傍点”所属。名前は父が好きだった『前略おふくろ様』のヒロインの名前からつけたらしいです。 http://w0b0r0.info/

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